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大阪地方裁判所 昭和52年(ワ)976号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【説明】

原告は、昭和五一年八月一日午後五時頃、大阪市長居公園内にある長居プールに遊泳に来ていて、その内の五〇メートルプールにプールサイドから飛込んだところ、プール底部に頭を打ちつけて、第六頸髄損傷の傷害を負い、その結果四肢麻痺を来すに至つた。

右長居プールは、被告大阪市が設置し所有しているもので、本件事故当時例年六月五日から九月一〇日までの間は、被告財団法人大阪市公園協会が被告大阪市の委任を受けて管理していた。

そこで原告は、本件事故は、被告大阪市の営造物である本件プールについての設置の瑕疵と、被告らの管理上の瑕疵によつて惹起されたものであり、被告らは、本件事故により原告の蒙つた損害を賠償する責任があると主張して、損害額の内金三七〇万円と遅延損害金の各自支払を求めた。

【判旨】

一請求原因1中の原告の負傷の部位程度を除くその余の事実、ならびに請求原因2の事実は、当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、原告は本件事故により第六頸髄損傷の傷害を負い、その結果四肢麻痺を来たしていることが認められる。

二よつて本件事故の原因、被告らによる本件プール設置上、管理上の瑕疵の有無について検討するに、本件プールが大阪市内における一般市民のレクリエーシヨン用に設置されていること、その満水時における水深は1.02ないし1.365メートル、プールサイド附近で最も浅く、南端で1.02メートル、北端で1.05メートル、但し南北の中央部では東端でも1.365メートルであること、本件プールはプール掃除の前日にも公衆の使用に供せられ、本件事故当日は同掃除の前日に当つていたこと、本件プールの周辺に飛込禁止の表示板が設置され、監視員が配置されていたこと、本件事故が営業終了間近の入場者の少いときに発生していること、本件事故直前にも飛込をする者があつたこと、以上の事実は当事者間に争いがない。

<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。

長居プールには本件プールの外に、二五メートルプール一面(幅一七メートル、水深0.9ないし1.2メートル)、大小の円形児童用プール各一面(七八〇平方メートルと三七五平方メートル、水深は大0.7メートル、小0.8メートル)であり、本件プールは南北に五〇メートル、東西の幅二五メートル、水深は前示のとおりで、利用できるのは一三才以上の者に限られ、他のプールから年少者が紛れ込むことがないよう判然と区画されている。また本件プールは、昭和四一年四月から五年間日本水泳連盟公認の競泳用五〇メートルプールであつたもので、当時は他の競泳用プールと同様に、各コースのスタート位置に飛込台が設けられていたが、その後一般レクリエーシヨン専用プールとなつてから飛込防止のため、右飛込台はすべて撤去された。そして本件プールでは、特に水深の点を考慮して、飛込禁止の措置がとられ、プール周辺にはその旨の注意書が掲示されている外、白色もしくは黄色の板に「飛込み厳禁」と赤色で大書した表示板(立看板)が六ケ所(東側に三、西側に二、南側に一)、入場者によく見える位置に設置されていて、これには、「水深最深部1.3M、スタート0.9M」或いは「浅い! 危険」等と水深の低さを警告する表示がなされていた。しかも右「スタート0.9M」というのは、特にプールサイド附近での水位の低さを強調するために、実際より約一〇センチメートル少く水深が表示されていたものである。長居プールにはそのオープン期間中毎日、全員大阪市の消防職員である監視員一〇名が配置されていて(二〇名が二班に分れて日替り勤務)、本件プールには三名、その近くにある救護所には一名が配属されていた。そして右本件プール配属の監視員三名は常時プールサイドの辺りを巡回しながら、プール内を注視するとともに、プールサイドら飛込をしようとする者がいないか見張つていて、このような者を見付けると、にらみ付けるとか、笛を呼き、ハンドマイクで呼掛ける等して注意していたし、また場内放送でも頻繁に入場者に対し、飛込をしないよう呼掛けていた。しかし入場者の中には、右のような飛込禁止の措置を承知の上で、あえて監視員の隙を窺いその目を盗むようにして飛込をする者がかなりあり、監視員としてもこのような者を事前であれ、事後であれ、すべてチエツクすることは不可能に近い状況にあつた。このことは、休日の営業終了間近で、後述のとおり水位の低下している時間帯においても同様であつて、むしろこの時間帯では、プール内が混雑していないため、右のような飛込を誘発しやすい状態にあつたといえる。そして原告も本件事故の際、右のようにして予じめ監視員の動静を窺い、その隙を見て飛込んでいる。但し右のようにして飛込をする者も、そのほとんどが通常の競泳のスタートのような姿勢で飛込むのであつて、プールサイドまで走つて来て勢をつけて飛込んだり、空中高く飛上つてから飛込んだりする者の姿が監視員の目にとまるということはなかつたし、本件事故の前後を通じて、長居プールにおいて飛込による負傷事故が発生したのは、本件事故をおいて他にはない。

長居プールでのオープン期間中の水質、水量の管理は、専門業者が委託を受けて行なつており、業者からは平日二名、土曜休日は三名の専従者が派遣され、プールの給排水作業は一切彼等が行い、被告らの職員がこれを代行することはなかつた。各プールは、朝開場前満水状態におき、水位が下ると補給水が入れられ(休日では午前一〇時頃から)、以後常時満水状態が維持されるよう給水が続けられる。但し休日には、家族連の入場者が多く、午後四時半になると二五メートルプールや児童用プールの一般使用がとめられるので、それにともない本件プールでも子供連で来ていた大人達が一斉に引揚げて入場者が激減することから、午後五時半の閉場までの間、一時的に水位が低下し、満水時よりも五センチメートルから一〇センチメートル程低くなる。本件事故当日も日曜日であつたので、午後四時半以降右と同様の現象が起り、本件事故当時の本件プールの水位は満水時よりも一〇センチメートル程低下していたけれども、通常の休日と異なる事態が生じていたわけではなく、開場時間中の補給水の注入も平常とおり行われていた。翌日のプール掃除にそなえて排水が開始されたのは、営業終了後の午後五時四五分頃からであつて、もともとプール内に人がいる間に排水栓を操作することは極めて危険であるため、営業時間内に排水栓が開けられたことはない。

ところで原告は、本件事故当時一四才、中学二年生であつて、同学年の友人二名と午後三時頃から本件プールに遊泳に来ていて、午後四時五〇分頃から監視員の隙を窺つて飛込を始め、一、二度飛込んだ後、本件事故の際には、友人達に「飛込むから見ておけ」と声を掛け、南側プールサイドの線とは斜方面に一〇メートル程、加速をつけて走つて来て空中に高く飛上り、その際俗にジヤツクナイフと呼ばれている、両足を前に出して体をくの字形に曲げ、手で膝を叩いてから体を伸ばして、着水しようとしたのであるが、両足が十分前に出なかつたため手が膝にとどかず失敗し、そのまま手を前に伸ばして水中に入つたところ、プール底部まで沈んで頭を打つた。そして浮上したところを異常に気付いた附近の遊泳者らによつてプールサイドまで運ばれ、監視員らに助け上げられ、直ちに救急車で病院に運ばれたが、前示の傷害を負つていて、四肢麻痺を来たすに至つた。なお原告は、小学生の頃から長居プールに通い、学校のプールでも練習していて、水泳は甚だ得意であつたし、中学一年になつて本件プールの入場資格が付いてからはしばしば本件プールに来ていて、その状況は知悉していたので、飛込禁止の趣旨も十分了知していたと推認される。また前示の表示板の表示から、本件プールの水深はプールサイド附近では0.9メートルしかないと思い込んでいたし、本件事故当時更に水位が下つていることにも十分気付いていた。

以上の事実が認められ、<証拠判断略>。

本件プールが、被告大阪市によつて一般市民の遊泳の用に供されている公の営造物であることは明らかであるけれども、公の営造物であるからといつて、いかなる異常の事態に対しても絶対に遊泳者の安全を保持すべき万全の策が講じられていなければならないものではなく、用速、利用状況等から通常予想される事態に対して安全性を欠くとき、始めて設置ないしは管理に瑕疵ありとされる。これを本件についてみれば、本件プールの水深が満水時で1.02ないし1.365メートルしかなく、本件事故当時には入場者の激減により更に水位が約一〇センチメートル低下していたことは前示認定のとおりであるけれども、一般遊泳用プールにあつては、水深を大きくし、水位を高くすることは、設置管理上経費が嵩むであろう点をさておくとしても、それ自体利用者に対する別途の危険をもたらすものであつて、水深が大きければ大きいほど望しいというものではない。右本件プールの水深、更に事故時の水位は、概して一般の大人用遊泳プールのそれに比しやや低いようであるし、また一般遊泳プールにおいて、遊泳に伴い行われるプールサイドからの飛込を完全に阻止することは不可能のようでもあるけれども、かつて本件プールが五年間、飛込台をも設えた日本水泳連盟公認の競泳用プールであつたことや、右飛込台撤去の前後を通じ、また休日の本件事故時と同様に水位の低下した時間帯においても、通常の遊泳に伴う飛込がなされている限りでは、傷害事故等発生したことのないことを考えれば、本件プールの右水深や水位が、一般遊泳用プールとして通常備えるべき安定性を欠く程に低すぎるとまで断定することはできない。本件事故の際原告が、飛込禁止の趣旨を知りながら、監視の隙をねらつて、プールサイドまで走行により勢をつけた上で、空中に高く飛上つて着水する等という特異、危険な飛込方をしていることは前示認定のとおりであり、一般遊泳用プールにおいて、禁を犯してまで右のように危険な飛込をする者があることをも予測し、かかる事態でもなお事故発生を防止できる程に水深を大きくし、かつ高い水位を維持しておかねばならないとは解し得ないところである。そうすると本件プールについては、その水深の点で設置上の瑕疵があつたとは解し得ず、他に構造その他の点で、設置上の瑕疵ありと認めるに足る事由の主張立証はない。また安全水位確保の点で管理上の瑕疵があつたともなし難い。

次に原告は、本件プールについては飛込防止のための注意、指導、監視等の体制に不備があつた旨主張するのであるが、前示認定の表示板による警告や監視員による注意等により、被告らとしては本件のようなプールでの飛込事故防止のために通常必要と考えられる対策は講じていたと解すべきであつて、いかに監視体制を固めようとも、その隙を窺つて飛込をしようとするものを完全に阻止すること等不可能に近い。現に原告は、一四才でその年齢相応の判断能力もあり、本件プールでは水深の低さから危険であるため飛込が禁止されいることを十分に承知の上で、あえて監視の隙を窺つて危険な飛込をしているのであり、かかる無謀ともいえる行為を完全に阻止し得る程に強固な監視体制をとることを要求することは、通常の市民プールの運営に関し人的物的設備の面で不可能を強いることになる。そうすると右原告主張の点に関しても、被告らによる本件プールの管理に瑕疵があつたとは解し得ない。

(戸根住夫 大月妙子 的場純男)

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